蔵元のひとり言
お酒の神様と言われる坂口謹一郎先生著「日本の酒」(岩波新書525)という本があります。冒頭に文化と酒のセンテンスがあり私の戒めとしておりますので紹介いたします。
世界の歴史をみても、古い文明は必ずうるわしい酒を持つ。すぐれた文化のみが、人間の感覚を洗練し、美化し、豊富にすることができるからである。それゆえ、すぐれた酒を持つ国民は進んだ文化の持ち主であるといっていい。一人びとりの個人の場合でも、或る酒を十分に鑑賞できるということは、めいめいの教養の深さを示していると同時に、それはまた人生の大きなたのしみのひとつでもある。「食らえどもその味わいを知らず」という中国の古い諺がある。未熟ものに対する戒めの言葉であるというが、「その味わいを知る」ことのむつかしさは、わが日本の酒の場合、全く文字通りの意味で受けとらざるをえない。
世阿弥や、利休や、芭蕉や、光琳の生まれた国民の間に、昔から育まれてきた日本酒ゆえ、それを完全に鑑賞するには、よほどの深い教養が必要なことはいうまでもないのである。
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